「なぜ、好きな人の前では素直になれないのか」

恋愛とは、ただ愛することではない。愛そうとする試みによって、自分の奥底にある「どうしようもなさ」と出会うことなのかもしれません。好きな人ができると、誰もが少し不自然になります。わざと強がったり、急に黙り込んだり、平気なふりをしたり。なぜ、そんなにも自分を隠してしまうのでしょうか。

その理由のひとつは、「拒絶されたくない」という恐れです。好きという感情は、どうしても「無防備さ」を伴います。本当に好きな人にほど、心を裸にするのが怖くなる。だって、自分の真心が受け入れられなかったら――それは「私自身」が否定されたかのように感じてしまうから。だから人は、自分を守る術として「素直じゃない自分」を作り出す。

もうひとつの理由は、「こうあるべき」という理想像です。恋愛には、文化や物語やSNSが作り上げた無数のテンプレートがあります。「駆け引きが大事」「重すぎると引かれる」「尽くしすぎてはいけない」――そんな無意識のルールが、自分の中の自然な感情をせき止めてしまう。すると、表現したい気持ちがあるのに、うまく言葉にならず、逆に冷たくしてしまったり、素っ気なくなってしまったりするのです。

でも、本当に求めているのは、うまくいく方法ではなく、〈真実の通じ合い〉ではないでしょうか。好きという気持ちは、計算ではなく祈りに近い。こうすれば相手は喜ぶだろう、ではなく、「これが私のまごころです」という差し出し方。それを受け取ってもらえることが、恋愛の中で最も静かで美しい奇跡なのだと思います。

だからこそ、素直になれない自分を責めなくていい。素直になれないのは、「本気で好きだから」こそなのです。強がりや沈黙の奥には、言葉にできない愛しさがちゃんと眠っている。その気持ちは、ちゃんと届いています。たとえ言葉に出さなくても、たとえ素直に振る舞えなくても、恋はどこかで静かに通じ合っている。

恋愛とは、他者を愛することを通じて、自分という謎を解こうとする旅でもあります。そしてその旅には、いつも「うまくできない自分」がついて回る。でも、そんな不器用さの中にこそ、恋の真実が宿っているのではないでしょうか。

好きな人の前で素直になれないあなたへ。そのままでいい。そのままで、愛してもいいのです。

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