2025年4月11日(金)
お昼の空気がやわらかくて、時間が少しだけ緩んでいるような気がした。そうたくんと、学食で少し早めのランチを取って、そのあと図書館の裏で話した。あそこは人が少なくて、風の音がよく聞こえる。私が好きな場所。けれど今日は、そうたくんがそこを選んだ。
特に何かを話したかったわけじゃなかった。でも、話したくないわけでもなかった。そんな曖昧な気持ちのまま、私たちは並んで座って、時々言葉を投げては、そのまま沈黙の波に委ねた。そうたくんの隣にいると、不思議と焦らなくて済む。沈黙が、意味のない時間に感じない。むしろ、沈黙の中で何かが生まれているような、そんな錯覚すら覚える。
「ねえ、人ってどうして誰かを好きになるんだと思う?」彼が唐突にそう言ったとき、私は心のどこかに火が灯ったような気がした。その問いは、きっとずっと昔から人類が考えてきた問いで、たぶんこれからも答えが出ないまま残る問いだと思う。でも私は、その答えを今この瞬間、彼の隣にいる自分として、言葉にしたかった。
けれど、口に出そうとすると全部、きれいごとになってしまいそうだった。「安心したいから」「寂しいから」「誰かに必要とされたいから」……そう言ってしまえば簡単だけど、私が今ここで抱えている感情は、そんな一言では全然すくい取れなかった。
たぶん私は、そうたくんに何かを見つけたんだと思う。まだ言葉にならないもの。もしくは、言葉にしてしまうと壊れてしまいそうなもの。彼の目が少し曇る瞬間とか、笑顔の奥にほんの一瞬だけ現れる迷いとか、そういうものに、なぜか私は惹かれている。好きになるということは、他人の中の「弱さ」や「未完成さ」に魅了されることなのかもしれない。強さじゃない。整っている部分じゃない。ほどけそうな部分に、心が触れてしまったとき、人はきっと恋に落ちる。
帰り道、道端の花が風で揺れていた。白い花びらが一枚、ふわっと舞って私の靴の上に落ちた。何もかもがささやかで、だけどその小ささが、逆に私の心を大きく揺らした。好きって、きっとそういうものだ。劇的じゃない。名前もつけられないまま、少しずつしみてくるような感情。今日の私の中には、それが確かにあった。ほんの小さな、でも確かな灯のように。